オンラインサロンメンバーによるプレミアリーグ分析。今回は4位と躍進したアストン・ヴィラを特集した。
基本的な攻撃戦術
①擬似カウンター
アストン・ヴィラが得意としているのはカウンター攻撃だ。それはただのカウンターではなく再現性の高い疑似カウンター。(攻→攻)通常のカウンターは相手からボール奪取成功時に発生する。(守→攻)
②カウンター
守備時アストン・ヴィラの選手同士の距離は短くなっている。セットされた状態のため誰がどこにいるかが選手同士で把握できている。なのでボール奪取後、素早くカウンターに移行することができている。(見る、考えることが少ない)
※カウンターのメリット
・少ない人数で攻撃ができる。(その分守備に人数をかけることができるので失点の可能性が低い)
・相手の陣形が整っていない状況で攻撃することができる。(得点の可能性が高い)
攻撃の流れ
zone1
前からプレスをかけさせる(擬似カウンターの準備=相手と相手の距離を伸ばす)。フリーになる選手が出てくるのでそこに配球。キーパーを使ってのビルドアップになるので必ず一人はフリーになる選手が出てくる。もしくはFW,IHにロングボール(出し手:GK,CB 受け手:FW,IH)。スペースへのパスではなく人にピンポイントのパスが多い。
主にロングボールでzone2に移行する。
zone2
ここで受けたFW,IHはまずzone3を目指す。(擬似カウンター)。相手の帰陣が早かったり時間がかかってしまった場合はボール保持を目指す。(zone2→zone3,zone2→zone1)
zone3
VOからFWへのライン突破のパスを狙う。もちろん相手は中央を閉めてくるのでSBが高い位置まで上がりそこを使いクロスを狙う。ここでは逆サイドのファーの選手がいることが約束事になっているようだ。
GK,CBがゲームメイカー
この戦術を可能にしているのがGKエミリアーノ・マルティネス、CBパオ・フランシスコ・トーレス、MFジョン・マッギン、WGレオン・ベイリー、FWオリー・ワトキンスの存在だ。
GK、CBに高度な戦術理解度とパス精度が求められる。ここの精度が悪いとまずこの戦術は成り立たない。
次にMFやFWには高いキープ力が求められる。GK、CBから精度の高いボールが来てもキープできなければ意味がない。ただキープするだけではなく状況次第でカウンターからボール保持に頭を切り替えられる状況判断能力も必要だ。
最後に試合を決めれるFW、WGだ。zone3に良い形で行ったはいいものの決定力がなければ意味がない。レオン・ベイリーはサイドで違いを出せる選手だ。オリー・ワトキンスの活躍も大きい。彼はDFとDFの間にポジションを取ることが得意だ。もちろんタイミングよくそこにいるのも大事だし足も早く献身性もありチームの中心選手でもある。この歯車がかみ合わさっているからこそ彼の37試合19ゴール(4位)13アシスト(1位)という素晴らしい結果が出ている。
ただ、あくまでもゲームメイカーはGK、CBである。
アストン・ヴィラの攻撃対策
対策として3つ考えられる。
①前からのプレッシングをやめ帰陣し待ち構える守備をする。そうすることでセットされた状況で守備する事ができ選手同士の距離が近いので相手が使うスペースが少なくなる。デメリットはカウンターする際に相手ゴールから遠いことだ。
②中盤に空中戦、対人が強い選手を多く起用する。前からプレッシングしてロングボールで前進しようしてきたところを潰す作戦だ。デメリットは攻撃力が落ちてしまうことだ。ただこちらもカウンター攻撃をメイン攻撃にすることでカバーできるだろう。
③ミラー作戦。アストン・ヴィラと同じ配置、戦術で戦う。そうすることによってあとは個人の質と戦術浸透度で勝負することになる。デメリットは多額の資金、戦術を浸透させるための時間が必要になってくる。アストン・ヴィラ対策だけのためにこれを採用するのはお勧めしない。
データから見る守備の特徴
ここからは、守備戦術について分析していく。
まず23/24シーズンのアストン・ヴィラの守備スタッツをデータを基に振り返る。(表①参照)
失点数は57と全体6位の数字だが、xGAは11位、PSxGは14位となっており、割とチャンスは作られているが、守護神のE・マルティネスのシュートストップ能力により助けられている部分が大きい。実際にE・マルティネスは個人スタッツにおいても、 Goals Prevented:8.4で2位、クロスキャッチ数:51で1位など好成績を収め、チームに大きく貢献した。また、チームスタッツとして特徴的なのが、タックル成功数およびインターセプト数が、共に全体19位となっている。この2つの数字の全体20位であるマンチェスター・シティは、ポゼッション率65%のチームであることを考えると、守備時間あたりの2つの数字は圧倒的に最下位となり、アストン・ヴィラの守備の大きな特徴となっている。また最も特徴的なのが、守備時にオフサイドにかけた数:167で1位となり、 2位のトッテナム:125、3位のフルアム:99と比較しても圧倒的な数であり、5大リーグで見ても最多の数となっている。
これら数字を見てもかなり特徴的な守備を行っているのがある程度見えてくる。次からは、その守備の方法を具体的に見ていきたい。
基本的な守備戦術
アストン・ヴィラは22/23シーズンの途中から就任しているウナイ・エメリ監督が、引き続き23/24シーズンを率いることとなった。エメリ監督は4ー4ー2のミドルブロックを中心とした守備戦術を採用しており、その守り方は基本的にはオーソドックスなゾーンプレスだ。
敵陣守備
敵陣でボールが奪われた際は、カウンタープレスで奪いにはいかず、相手カウンターを遅らせながら、 4ー4ー2のミドルブロックを形成することを優先する。 (図①参照) これは、アタッキングサード:タックル成功数が68で 20位であることからもわかる。ミドルブロックを形成した後は、中切りによりボールをサイドに誘導し、縦を切りながら寄せることで、相手の選択肢を限定しボールを奪いに行くというオーソドックスな形を取っている。
その中でも特筆すべきは、ディフェンスラインの統率で、相手ボールホルダーが裏に蹴ってくることが確定的な場合以外、ラインを常に高く保つことに重きを置いている。(図②参照) 相手FWが裏に抜ける動きをしても、ラインをズルズル下げることがない。これにより、ブロックをコンパクトに保ち続ける事ができ、相手のブロック内でプレーするスペースと時間を奪い、ブロックの外でボールを持たせる時間を多くしている。
自陣守備
自陣での守備も、基本的には敵陣守備と変えないことで、シームレスにどのボール位置でも同じ守備形態を取ることが出来ている。(図③参照) ディフェンスラインの高さを維持することも変わらないため、相手ボールホルダーの位置に合わせ高いラインを保ち続けることで、安易に、ボックス付近まで撤退した守備をしないように意識付けされている。これにより、相手がどの位置どの高さでボールを持っていても、ブロックをコンパクトに保ち続け、守備に安定をもたらしている。敵陣守備との違いといえば、自陣ゴールに近づくにつれ、左右のポケットに対して2ボランチがカバーに入ることが多くなってくる。(図④参照) これは、相手がポケットを狙ってくる頻度によってもカバー意識が変わり、4バックの弱点を補強している。
アストン・ヴィラの守備の強みと弱み
強み(Strong)
①ビルドアップを丁寧に行うチームに対して強い
ボールを奪った後に、カウンターにあまりいかず、ビルドアップを丁寧に行う相手チームに対して強さを発揮する。ビルドアップを重視するチームは、縦に速くボールを失いやすいカウンターや、背後を積極的に狙った攻撃をあまり行わないため、ミドルブロックを組むための時間を稼ぎやすく、守備を安定して行うことができる。
②スタミナ&ストレス・マネジメントに優れる
ハイプレスで人を捕まえにいかず、ゾーンで守ることを徹底している&ディフェンスラインを高く維持し、自陣深くまで戻るフルトランジション回数を減らすことで、守備時の移動距離やスプリント回数を抑えることができ、スタミナ・マネジメントに優れるため、攻撃時にスタミナをより使える・連戦続きでもパフォーマンスを維持しやすい等の強みがある。また、ゾーン内の相手の位置を頻繁に認知し捕まえにいくことはあまりしないため、守備時の脳にかかるストレスを低減することができ、連戦による脳の疲労を抑制することができる。
弱み(Week)
①背後を取るのが上手い相手を抑えるのが難しい
そのディフェンスラインの高さ故、背後を取るのが上手い相手に弱い。特にチームとして積極的に背後を狙ってくる&背後を取るのが上手いFW&背後に出せるパサーがいる相手には失点が多くなった。実際、23/24シーズンのプレミアリーグにてホームで敗戦したのは、22節ニューカッスル戦、24節マンチェスター・ユナイテッド戦、28節トッテナム戦と背後を取ることが上手いチームに負けている。特に、ニューカッスルにはシーズンダブルを喫しているほど苦手としており、イサクやゴードンなどの背後を取るのが上手い選手を抑えきれなかった。
23/24シーズンのニューカッスルがCLとの両立に失敗したように、アストン・ヴィラの24/25シーズンの課題は「継続した結果」を出せるかどうか。彼らの戦いぶりに注目したい。
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